ことはみんぐ

演劇、美術、ミステリ、漫画、BL。趣味の雑感。

K.テンペスト2017 雑感

公演概要

演出:串田和美

作:シェイクスピア

翻訳:松岡和子

出演:串田和美中村まこと、京極朋彦、大鶴美仁音、他

K.テンペスト 2017 | まつもと市民芸術館

 

観劇公演

2017年2月25日 マチネ

まつもと市民芸術館 特設会場

 

注意

  • 何の気遣いもなくネタばれしています。

 

 

まつもと市民芸術館の芸術監督である串田和美さんによるテンペストだ。普通の舞台とは違ってステージと客席が混じり合っていた。普通は客席の最前列の前にステージがあって芝居はそのステージ上で繰り広げられる。たまにはステージから下りて来て客席のなかを動き回るような演出もあるが、それ以上に今作は客席とステージが混じり合っていた。舞台は、一つの箱のようなものが暗幕で覆われた空間の真ん中に設置されていてそれが舞台、ステージとして存在していた。舞台上には椅子がたくさん並んでいた。舞台の演出として使う椅子の上には本とか靴とかが置いてあってなにもおいてない椅子には観客が座るようになっていた。つまり観客は役者さんが立つ舞台の上に一緒に存在していた。

 

客席はその箱型のステージの外にもぐるりと箱を囲むようにあったけれど私は舞台上の椅子に座った。舞台が始まる前から役者さんはみんな箱型舞台の上にいて役者さんどうしや時には集まって来た観客にも話しかけたりしていてそれも普通の舞台とは違っていて面白かった。私の座った席はちょうどミランダ役の大鶴美仁音が最初の立ち位置として座る椅子のお隣で舞台が始まる前、そこに座った大鶴さんとも少しお話ができて嬉しかった。ミランダの大鶴さんはとても可愛い方で声がよく通って素敵だった。

戯曲についてはシェイクスピアの有名どころなので割愛するけれど、この演出は戯曲を読むどこかの教室での講義のようなところから始まる。戯曲を読み上げながらこの世界はどういうふうにできているのかみたいなことを考えていこうとしたり、かつて自分が溺れたときの記憶を語ったり、そういう導入部でかつてミラノ大公だったプロスペローが娘ミランダとその島に漂着し、長い月日が経ったことを表現して物語に自然と移行していった。そういう導入がところどころで挟み込まれ、役を離れた役者さんがしばし戯曲とは違う時間を連れてくる。そしてまた自然と戯曲の世界へ吸い込まれていく。舞台上に観客がいることで役者全員が語る戯曲を読み聴かされているような、語られる物語であるはずの夢の世界に迷い込んだようなとても不思議な空間を作り出していた。

また、音楽も舞台上の人々が作り出していて口笛に似たなにかの笛を最初にミランダが座っていた椅子に座ったプロスペローの串田さんが吹いていたり、役を持ってはいないけれど、すべての役を分け合うような役の人たちもたくさんいて戯曲にはエアリエルしか出て来ない妖精たちとして歌ったり楽器を鳴らしたりせりふを繰り返してこだまになったり音楽も物語と一つになっていた。そしてそんな役名をつけるなら妖精たちとなる役者さんがたが本当にとても良かった。みんなとても声が美しくて歌が美しくてとても可愛かった。

今回の出演者の皆さんは、勉強不足であまり存知上げい方が多かったのだけれどどの方も本当にとても素敵だった。声のかわいいミランダ役の大鶴美仁音さん、ついつい目で追ってしまうゴンザーロ役の中村まことさん、そしてたぶん一番に惹かれたエアリエル役の京極朋彦さん。どの方々もとても良かった。そして妖精たちを演じた皆さんもとても声が美しくて素敵だった。

光のボールをみんなで持って行進したり、新聞紙で作った船が空を渡っていったり、女性の役者さんを肩に立たせて人間十字架みたくなって歩くシーン、部屋でなにをしているかとか雑談しながら戯曲の世界からふっと現実に戻るシーン。不思議でなんだかとっても美しくて夢のようでしあわせな観劇体験だった。終わってしまったとき、最初から雑談しながら舞台にいた役者さんたちが本当にいなくなってしまってなんだかとっても寂しかった。もっとこの世界に浸っていたい。そう強く思った。とても素敵な世界だった。

 

串田さん演出作品は昨年の四谷怪談に続いて二作目だったのだけれど、四谷怪談でも感じた不思議な夢のような感覚が癖になる。もっと串田作品をこれからも観ていきたい。

 

テンペストは夢だ。プロスペローの見た、もしかしたらシェイクスピアが見た夢。すごく良かった。