ことはみんぐ

演劇、美術、ミステリ、漫画、BL。趣味の雑感。

エレクトラ雑感

公演概要

演出:鵜山仁

出演:高畑充希白石加代子横田栄司村上虹郎麿赤兒、中島朋子、仁村紗和

www.ryutopia.or.jp

 

観劇公演

2017年4月15日 マチネ

世田谷パブリックシアター

 

注意

  • 何の気遣いもなくネタばれしています。
  • すべて個人的な見解です。

 

お茶の間ギリシャ悲劇。

なんだろうなこの取っ付きやすい感じはと思っていて引っ張り出したのがそんな言葉だった。

なんだかんだといってこれは家族の話で母親が浮気して邪魔になった父親を殺し父親が大好きだった子どもが姉弟で結託してその母親を殺しただけの話だ。いや、”だけ”というにはかなりヘビーだけれどそのくらいの軽いテイストに感じた。死というものが非情な断絶ではないという前提のある軽さ、死というものがなんだかとても身近で昔、イザナギが死んでしまった妻のイザナミに会いに黄泉平坂を下っていって結局すぐに逃げ帰って来たみたいな生と死がなんの隔たりもなく陸続きにあるような軽さを感じた。神話というのは洋の東西を問わないのかそんな親しみを特に感じるお茶の間感がある舞台だったと思う。

 

母親には娘の一人を父親に戦争で勝つための生け贄にされたという恨みもあったし、単に父親が邪魔だから殺したとも言い切れなかったり、その生け贄として死んだはずの一番上のお姉ちゃんが実は月の女神アルテミスにかっさらわれて遠い異国で生きてたなんておまけまでついてまさかの父ちゃん死に損??みたいなことまで起きるし長女を生け贄にしろ!母親を殺すのは弟だ!とか神様に口出しされるしだれがだれを振り回しているのかみんなで勝手にとっちらかってるのかだれもがみんなわーわーわめいて泣いて自分の思い通りにならないことを嘆いて結構好き勝手にやっててそれが概ねまかり通っているので夫殺しに母殺し、家族で殺し合う実際にあったらかなり残酷で後味悪いとしか思えないことを描いているのに見ていて面白かったのが不思議だった。

休憩込みで三時間近くの上演時間があるはずだけれど体感としてはもっと早かった。取っ付きやすくて親しみやすくてギリシャ悲劇!重厚!!というようなイメージをあっけらかんと払拭していった。

いじけてやさぐれたエレクトラが膨大な愚痴をこぼすのを聞きながら母と娘の確執ってやつはいつの時代にもよくあるものだなと自分のなかにもある傷口を抉られることもなく悲劇ってやつはやっぱり喜劇だなと思いながら見られた作品だった。

舞台装置や衣装には特に際立って目を惹くという点が個人的にはなかったけれど音楽と効果音が生演奏でつけられていてそれがかっこ良かった。

 

あと、上演前にパンフに目を通しておくとより楽しめますと劇場の方がおっしゃっていたので登場人物の説明とギリシャ劇がどういうふうに上演されていたのかという説明の部分を読んでから舞台を見た。その解説にはギリシャ劇では一度に舞台に立てるのは三人だけという決まりがありそれはもともと三人の役者だけで演じられたからだとか、殺害シーンは決してその瞬間を舞台で表現することはなくその前後の状況だけを演じたとかそういうことが書かれていたのだけれど、今回の舞台もそれに概ねそって演出されていた。舞台上に同時に登場しているのは多くても四人。いや、五人の時もあっただろうか?それでも出演者は全部で七人。折角ギリシャ劇の縛りに則った形での演出にするのならば三人とはいわなくとも七人まで増やさずとも上演できたような気がした。何しろ母親の愛人役の横田栄司さんの出番がたしかにぴりっとくすっと素敵に登場されてはいたけれどもったいないほど短く、最初にちょこっと声だけ登場した中島朋子さんに至ってはラストのラストまで登場しないというまったく贅沢な役者さんの使い方をしていたのでなんというかもったいなかった。たぶん四人か五人で全部の役を回せると思うのだ。登場するタイミングから考えて三女と長女は同じ人が演じることが可能だろうし、愛人と父親も同じ人が演じることは出来る。個人的にはギリシャ劇の仕様に従うならそれもありだったのではと思わなくもなかった。

そして多くて四人しか同時に舞台に立たないという仕様も舞台の広さと少しちぐはぐで舞台装置の簡素さも相まってなにかもっとできそうだなと思わなくもない。ギリシャ劇のセオリーという型にはまるのもはめるのも悪くはないけれど個人的にはもっとなにか出来たのではないかという物足りなさの残る作品だった。もちろん決して面白くなかったわけではなく、感触としては面白かったのだけれどこればっかりは好みの問題だと思う。

あとラストで白石加代子さんがアテナとして登場したけれど雰囲気から天照大神を想像してしまいギリシャ神話と日本の神話の親和性がやっぱり少し面白かった。まあ、アマテラスに相当する太陽神のアポロンは麿さんが一瞬ギャグかなと思うような出で立ちで現れていたのでまあアテナとアマテラスの親和性はちょっとおかしなことにはなるのだけれど。

そしてカテコ二回目でエレクトラ役の高畑充希さんが母親役の白石加代子さんとぎゅって抱き合っていたのがとても可愛かった。

 

とりあえず、ギリシャ悲劇という演劇に対して取っ付きやすく適度にふわっと面白いかも?と楽しむにはちょうどよさそうな作品だと思う。でももっとガツンと家族で殺し合って母と娘の確執も姉と弟のもっと生生しい気持ちの関わりもぐさぐさ胸に突き刺さってくるような作品を想像、期待して行くと裏切られた感が半端なく、じわじわと多少の怒りが湧いて来たりするのでそれはそれで気をつけた方がいいなと思わなくはない。

あと、今書いていて思ったのだけど、これ、三人といわず二人芝居とかにしたほうがシンプルでむしろ面白くなったんじゃないだろうか。もしかしたら一人芝居でもいい。白石さんがこの題材で一人芝居をするというならもう一度見てみたい。