ことはみんぐ

演劇、美術、ミステリ、漫画、BL。趣味の雑感。

映画 3月のライオン(後編)雑感

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注意

  • 何の気遣いもなくネタばれしています。

 

映画3月のライオン後編を見てきました。

前編は前編の雑感でも書いた通り、時間軸が少しずれたりはしていたけれど原作にかなりそっていた。けれど後編は大まかな流れは原作にそっているものの時間軸がずれていたり登場人物を絞るために人物とエピソードが原作と異なっていたりという部分だけでなく後半は特に映画用のオリジナルなシナリオに変わっているという印象だった。 

 

あと二時間くらいの上映時間のなかに漫画とはいえ数冊のエピソードをそのまま詰め込むことはやはりむりがあるのではしょりはしょりになっているのは仕方ないのだろうけれど桐山くんが新人王になった記念で宗谷名人と対局するところ原作でかなり好きなエピソードなのでやっぱり流れが逆になっていたりちょっと桐山くんの反応が違うふうに描かれてるのは残念だった。宗谷名人との嵐の夜はちょっと楽しみだったし、対局の感想戦も映像で見てみたかったなという思いは少し残った。

それでも桐山くんの話としては描くべきところは描いている印象だった。いじめのシーンは正直ちょっとどこまで突っ込むのか不安混じりで見に行ったのだけれど、桐山くんにとって重要なパートを描くことに重点を置いている印象で結構あっさり通過した感じだった。原作よりも淡々と何が起きてどう話が進んだのかということを語る程度だったけれど桐山くんがひなちゃんに過去の自分をすくわれたという部分がこの映画のなかではやっぱり一番重要でそれはちゃんと伝わるように描かれていた。そしてだからこそいじめのエピソードのあとに待っている川本三姉妹のモンスターパパに相対したときにいきなりひなさんとの結婚を考えていますとか言い出してしまう桐山くんの暴走を概ね納得させるようになっていたと思う。

ただ、モンスターパパと桐山くん、川本三姉妹の関係が原作とかなり違う描かれ方をしていて原作では川本三姉妹の前では言わなかったことを桐山くんが口走って川本三姉妹と気まずくなるという展開はちょっと切なかった。それでも映画では三姉妹は三姉妹でちゃんと自分たちの家族のけじめを見つけ出して自分たちで解決するし、桐山くんは桐山くんで川本家とちょっと離れて、でもやっぱりこの人たちは自分にとってとっても大切な人たちで失いたくないとちゃんともう一度手放したままではなく泣きながら取り戻しにいってくれたのでこのエピソードの解決としてはとても良かったと思う。

それにこの流れだったからこそ、桐山くんがいじめのエピソードのところでひなちゃんに救われたことから直結して結婚を考えていると口走るような突っ走りを見せたことにもブレーキがうまくかかってひなちゃんを恩人だと思っている桐山くんという部分がきちんと描かれる結果になったように思う。桐山くんの恋心的にはちょっとやきもち焼くとかかわいいなってぼんやりするとかくらいで原作でもそれほどあからさまに描かれることはあまりないけれど映画ではそれよりももっと薄まっている感じだった。桐山くんが川本三姉妹と育んだ時間が映画では原作よりも短い感じなのでその分、原作で桐山くんが川本家の一員、まるで本当の家族のようになっていった時間がなかった代わりにこの映画ではようやく桐山くんも川本家のドアをノックできるところまでいけたという描き方になっていたような気がした。

なので、二時間に収めるなかでは悪くない気持ちの流れが出来ていたと感じたし、父親との話は原作とは違うエピソードに変わっていたけれどこの映画のなかでは良い流れになっていたと思う。

あと、もう一つコミックス12巻までの原作には入っていない幸田父と香子、歩と零の話がとてもよかった。

香子が幸田父におまえはあのとき零に勝ってた、勝ちを拾えずに先に投げたのは香子自身だと自分を信じきれなかった自分が負けたんだというシーン、前編の島田さんが宗谷名人に負けた対局と対になっているようなエピソードで島田さんは勝ってたよと言われて自分の未熟さを痛感してしまうわけだけど、香子の方は自分の弱さに対して納得することでようやく自分の気持ちの納めどころを見つけられる良いシーンになっていてこれは映画のなかの香子にとってはすごく済いになっていた。このシーンは香子のために本当に良いエピソードを入れてくれたなと思ってとても嬉しかった。

映画のほうが幸田家と零が案外ちゃんと家族で原作にある不安定さが少し和らいでいるのでちょっと安心できてそこはわりと好きだと思った。香子が後藤に獅子王戦で桐山くんに負けたときなんで負けたか解る?あたしを大切にしないからよ、というシーンもすごく良い。この香子はちゃんと後藤が自分の気持ちとして好きなんだなって思わせてくれる。原作の香子より映画の香子は激しさが和らいでいる分、安定感があるのでこのままとりあえずは後藤とちゃんと仲良くしてくれそうでよかった。

そして桐山くんが映画では後藤に勝って獅子王戦の挑戦権を獲得してもう一度宗谷名人と対局するというところで終わっているわけだけれど、おーい!桐山くん!いつのまにそんなに突っ走って強くなっちゃったの??とならなくはないけれど前後編の才能あふれる将来有望な棋士の話なのでこれはこれでまあありかなと。原作の桐山くんもそのうちタイトル戦に臨むような棋士に成長してくれると思うので映画の桐山くんを追いかけて頑張ってほしいなと思った。その前に島田さんにぜひなにか一つでもタイトルを…!!!!とも思うけれど。

映画3月のライオン、これは原作とは違う部分もあし、もしかすれば原作読んでないとよく解らないところもあるのかもしれないけれど、この映画という一つの作品としてちゃんと描くべきところは描かれていたので良かったと思う。

ももし原作未読でこの映画を見た方にはぜひ原作のほうも読んでもらいたい。桐山くんがひなちゃんに済われたようにかつてつらい思いをした人たちがこの作品を読んで横からがしって抱きしめられるように済われることもあるかもしれない。それにたぶん映画の方が少し真面目というか堅めなので原作のほうがくすっと笑える楽しさをもっと味わえると思う。原作もとてもおすすめです。

13巻の発売が待ち遠しい!!

 

ちなみに、登場人物中で個人的にイチオシ☆なスミス先輩@中村倫也くんは今回はちょっと出番があまり……なかったのですが、それは言わないお約束なところがやっぱり可愛かった。

スミス先輩は将棋は停滞しているけれど案外良いやつで結構頑張ってるんでぜひスミス先輩を応援してあげてほしい。あと、映画では後藤が島田さんにどんだけ研究してきたんだ!?と言われていたけれど原作では映画に出て来なかった土橋九段がその対象なのでそこは個人的に押さえておきたい。土橋九段と宗谷名人の関係とこのふたりのエピソードが原作のなかで一、二を争う勢いで好きなので。土橋九段最高。